『テーマ・人外との恋愛』 2007/6/18



「っ〜〜〜くやしいっ!!」
 わたしは歯軋りしながら上を向いた。悔し涙がこ
ぼれない様に。
 市役所の出入り口で憤慨するわたしを彼が見上げ
ているのがわかる。
 今日、わたし達は婚姻届を出しに来た。
 人間のわたしと、シベリアンハスキーの彼との婚
約届。
 それは一枚の紙っ切れだけど、わたし達の愛の契
約。
 それを受付の無愛想な全身サイボーグ女はボール
ペンで何度も穴を開けた挙句、鼻をかんで食べてし
まったのだ。
「犬と結婚できるわけないじゃん、馬鹿っしょ?」
 怒り心頭の私は、彼に命じて受付サイボーグの配
線を滅茶苦茶に噛み切ってもらった。
 彼の歯は全部ダイヤモンドカーボンに植え替えて
あるので、木っ端サイボーグの柔性皮膚なんか簡単
に裂いてしまえる。
 血液燃料の噴水を浴び、高笑いしていたら、責任
者に別室に呼ばれて説教された。
 納得いかない。
「いいですか、結婚というのは誇り高い私達人間が
するものです。人外の畜生とはしてはいけません」
 わたしは愛のために全力で反論した。
「人外の畜生ってなによ。私は彼を愛してるのよ。
それでいいじゃない」
「いけません。彼は人間ではありません。犬です」
「犬の何がいけないの?」
「色々です。まず、あなたとの子供を作れません。
超少子化時代の今、百人子政策に違反します」
「それなら問題ないわ。わたし七つの頃に父親の子
供堕胎して以来子供作れないの。ちゃんと免除して
もらってるもん」
「彼は犬です、喋れません。あなたとの会話が成立
しません」
「彼はわたしの言葉は理解しているわ。わたしだっ
て彼の言いたいことはわかるわ。それとも失語症の
人は結婚できないの?」
「彼は人間ではありません。二本足で歩きません。
全身毛だらけです。吼えます」
「あんたたちだって脳味噌と性器以外機械じゃない
の。わたしも彼も生身だわ。機械が結婚するのに生
身の私達はダメなの?」
「機械体であれ人間です。結婚の権利は認められて
います。あなたの発言は機械体差別撤廃条例に抵触
━━」

 わたしたちの結婚は認められなかった。
 彼は人間ではないから。人外だから。
 脳味噌だけの人間にわたし達の愛は全否定されて
しまった。
「人外人外って……人外ってなんなのよーもうっ!」
 入り口で吼える私と彼を諫める人間なんて、どこ
にもいやしなかった。









 了


<寸評>


無念 Name としあき 07/06/15(金)23:36:03 No.45867883   
>[f268512.txt]
なかなか面白かった
最後の台詞が効いてるね
あと細かい設定も見えてていい

>[f268512.txt]
なんか微笑ましいな
人外だからもっとモンスターみたいなので
来ると思ったから、意外だった
俺は面白いと思うよ、こういうの

>[f268512.txt]
3行目と4行目の間で場面が変わってる?

>[f268512.txt]
掛け合いでしか話が成り立たないものは
どうなのかって意見が前にあったけど、
俺は結構こういうのが好きだ

>[f268512.txt]
これ、結婚相手が車とかバイクで、
受付が犬だったらもっとカオスったんじゃね?







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