『テーマ・だるま』 2007/6/14


<1>



「なんかいたよね、こんなの」
 真っ赤なダルマに自慢の胸を押し付け、しな垂れる
ように胡坐をかいていた姉が、なにを思い出したのか
呟いた。
「……何が?」
 僕は大学ノートから目を離さずに問い返した。
 今日は徹夜覚悟でこのレポートを仕上げなければな
らないので、夕飯以来ずっと自室に篭っている。
 いい感じにノレてきたところに、姉が闖入してきた。
いつもどおりの下着姿でだ。
 僕は姉を一瞥だけすると、目線を動かすだけで、絶
対に姉のほうを向かなかった。
 見ればまた勃起してしまい、それを見た姉はその気
になり、僕はレポートが終わらなくなる。
 それは、とても、困る。
 しかし無視すると、無理やりそういう展開にもって
行こうとするので、適度に相手をして「つまんなーい。
もう寝る」と言わせなければならないのだが━━
「うん、いたよ、三銃士に、こんなの」
「……はぁ?」
 前から頭の回路はそんなによろしくないと思ってい
たが、いよいよ馬鹿になってしまったんだろうか。
 オナニーもしすぎると馬鹿になるって言うし。
「いたじゃん、ほら、なんだっけ?」
 うーん、うーんと唸る姉。それもまた奇妙な色っぽ
さがあり、僕はシャーペンの芯を三度も連続で折って
しまった。
「ダルマみたいなぁ、名前だってばぁ」
 姉がすりすりとダルマの頭を撫でる。
「ダルマみたいな名前……ねぇ……あっ……あぁ、わ
かった」
「え、さっすがぁ。やっぱ大学生は違うね、で、なん
だっけ?」
「そりゃ教えてもいいけど……今日は僕の邪魔しない
で寝るって約束してくれる?」
「え〜……しょうがないなぁ、いいよ、約束するから
教えて」
「三銃士にダルメシアンって剣士がいたよ、確か。ダ
ルマとダルメが引っかかったんだね」
「……すっごーいっ! そっか、ダルマとダルメかぁ
っ! そっかっそっかっ!」
 姉はバシバシとダルマを叩いて喜んだ。
 僕はにんまりと笑う。すると━━
「ちょっと、あなたたち、もう遅いんだから大きな声
出さないでよ」
 階段の下から母の声が聞こえてきた。
「は〜いっ!」
 大声で返事する姉。やはり巨乳はアホなのだろうか。
「んーっ気持ちよく寝れそうっ! それじゃ、勉強頑
張ってね」
 姉は軽やかに僕の頭を撫でてダルマを蹴っ飛ばし、
部屋を出て行った。
「……ダルメシアンは犬だよ」
 明日あたり大学で言い触らして恥をかくかもしれな
いが、たまにはこういう仕返しもありだろう。
 僕は頭を切り替えて、シャーペンを握りなおす。
 さぁやるぞと気合を入れたときだった。
「あら、今日はまだ勉強してたの?」
 母の声がドアのあたりから聞こえてきた。
「……うん、明日までに……やんなきゃいけなくて…
…」
 僕は微動だにせずに言った。
「そうなのぉ……」
 湿り気のある母親の声。
 僕は一瞬だけ視線を流す。
 下着姿の母の足元に、我関せずと背を向けて転がる
ダルマがいた。 










 了


<寸評>


無念 Name としあき 07/06/08(金)01:24:30 No.45197192   
>f265294.txt
読後になにも残らないというか
雰囲気はあるんだけどそれ以外工夫がない
まぁ短文だし仕方ないのかもしれないけれど





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